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“まだ見ぬ、Life & Time”を創る挑戦へ - BLUE FRONT SHIBAURAがつなぐ都市と暮らしの未来

沓掛 英二(野村不動産ホールディングス株式会社 取締役会長)× 中村 和男(シミックホールディングス代表取締役CEO)

#IKIGAI   #新たな働きかたのヒント   #特別対談   #インタビュー   #コミュニケーション  

東京・芝浦の水辺に誕生したBLUE FRONT SHIBAURA。2025年8月、シミックグループはその一棟目であるTOWER Sに本社を移転しました。都市の利便性と自然の豊かさを融合させながら、新しい価値を生み出そうとする挑戦の背景にある想いとは。中村CEOが、野村不動産ホールディングス取締役会長・沓掛英二さんに伺いました。

証券マンとして駆け抜けた30年

中村 : 証券の世界でご活躍された後、野村 不動産ホールディングスを率いられてきた 沓掛さん。今日はこれまでの歩みや想いを 伺えればと思います。まずは、生い立ちから お伺いしたいのですが。

沓掛 : 長野県長野市の出身です。田舎育ち だったので、子どもの頃から都会への漠然 とした憧れが強くありました。中学までは 勉強ができたので名門校に進学したものの、 数学の微分積分でつまずいて落ちこぼれて しまいました(笑)。しかし、とにかく東京に 行きたいという気持ちがあり、最終的には 浪人して明治大学に進学しました。大学で は心機一転、よく勉強をしましたし、アルバ イトも一生懸命やりました。

中村 : 僕は山梨県甲府市出身で、山に囲ま れて育ちました。いつかあの山を越えて 行きたい―そんな想いを抱いていたので、 都会への憧れを語る沓掛さんの気持ちは、 よく理解できます。沓掛さんの明るさと、人 の心を惹きつける力は、大学時代から身に ついていたのですか。

沓掛 :  いや、まったく(笑)。転機はやはり、 野村證券に入社してからです。私が新卒で 野村證券に入社した当時は、時代が時代 だったもので、朝も夜もなくがむしゃらに 働いていました。その中で、じっくり粘り腰で 状況を探る姿勢や、お客様との距離を詰め る経験を通して、長く良い人間関係を築く ための基礎を身につけられたのではない かと思っています。証券の世界で30年間、 常に第一線で走り続けた経験が、今の自分 の基盤になっています。

中村 : 僕が製薬会社に勤めていた70年代 から80年代の頃の話ですが、野村證券の 担当者が来ると、社長まで出てきて話をする ことも珍しくありませんでした。今ではなか なか考えられないことですが、それだけ 野村の証券マンがお客様との信頼関係を 大切にし、若手にも大きな裁量が与えられ ていたからなんだと思います。

沓掛 : 確かに、若いうちから大きな裁量を 任され、実力主義の社風で鍛えられました。 あれから時代は変わりましたが、今でも 野村不動産ホールディングスでは若い人が 自由に挑戦するというDNAが受け継がれて いると感じます。

会社を次のステージへ。 「まちづくり」の基盤をつくる

中村 : 社長として、そして会長として、野村 不動産グループを率いる中で、コロナ禍 以降も業績は絶好調ですね。

沓掛 : 役員として会社を次のステージに引き上げたいという思いは常に持っています。 これまでの成長は幸運にもタイミングに恵まれたと思います。2006年に上場し、程なく して会社として勢いのある時期にリーマン ショックが起きましたが、競合が苦戦する中 にあっても、着実に事業拡大に取り組み、 良い不動産を仕込むことができました。 BLUE FRONT SHIBAURAも、きっかけは その好機に生まれたプロジェクトです。

中村 : 海外に行くと素晴らしい建物がたく さんありますよね。日本でも素晴らしい建物 はありつつも、海外を超えるのはむずかしい のかなと思っていました。それを目の当たり にした瞬間、想像以上の衝撃を受けました。 ニューヨークのハドソン・ヤード以上に面白 く、野村不動産ホールディングスが先頭を 切ってここまで実現したことに心から感銘を 受けました。

沓掛 : ありがとうございます。TOWER S 入居契約第1号がシミックさんだったことも、 本当に嬉しかったです。プロジェクトの価値 や思いを一番最初に理解してくれた方々 ですから。「やっぱりやってよかったな」と心 から思える瞬間でした。

中村 : 僕たちも素晴らしいビルに入居でき て誇らしいですし、感謝しています。

沓掛 : このプロジェクトは、東日本旅客鉄道 と共同で国家戦略特別区域計画の特定 事業として建設を進めています。私が本プロ ジェクトに加わったのは、野村不動産ホール ディングスに転籍した2014年頃でした。当時 は、この土地に対する容積率は400%程度 だったため、既存の浜松町ビルディングと 同規模の建物しか建てられず、すぐに建替 えをする予定はありませんでした。 ところが、東京オリンピック開催決定を機に 創設された国家戦略特区に認定されたこと で容積率が約1,200%まで認められ、この ビルと隣にもう一棟、開発が可能になり ました。これは、本当に大きな転機となりま した。

中村 : 当時の安倍政権下では国際化を含 めて「東京を大きく変えていこう」という強い 意識がありましたよね。

沓掛 : そうですね。だからこそ、われわれも 基幹事業としてきた住宅開発にとどまらず、 このプロジェクトを通じてこれまでにない未来 志向の大規模な「まちづくり」のステージに 踏み出し、歩みを続けています。

世界に誇る眺望と空間

沓掛 : BLUE FRONT SHIBAURAは、建築 としても従来のオフィスビルとは一線を画す 存在です。単なるオフィスビルではなく、都市 の利便性と、空と海の自然の豊かさの融合 した設計になっています。建築家の槇文彦 先生が28階Sky Terraceやフェアモント 東京の屋外テラスでその理念を体現してくだ さいました。

中村 : 日本にいる感覚を忘れるほど未来 志向の空間ですね。東京にはシティビュー の素敵な眺望を持つ建物も多いですが、ベイ ビューとシティビューの両方を楽しめると いうのは貴重ですよね。

沓掛 : 日本初上陸のラグジュアリーホテル 「フェアモント東京」も入居しています。先日 フェアモント・ホテルズ・アンド・リゾーツの CEOも「この景色とロケーションは唯一無二 だ」と評価してくださいました。世界のどこ にも負けないプロジェクトだと自負してい ます。

新たな価値が生まれる空間を創造する

中村 : BLUE FRONT SHIBAURAは、 オフィスやホテルだけではなく、地域全体 のコミュニケーションまで考えられているの が素晴らしいと思いました。

沓掛 : ありがとうございます。ここから直接 クルーズに出られるように設計しており、まち と水辺をつなぐ拠点になっています。次世代 モビリティなども視野に入れ、東京の陸・海・ 空を結ぶ結節点を目指しています。

中村 : さらに、シミックがプロデュースする 「IKIGAIメディカルクリニック」も開設され ます。単なる医療施設ではなく、陸・海・空が つながるこの拠点で、スマート&グローバル・ ヘルスケアを実現する場です。ここに訪れる人々が、自分らしい生き方や健康のあり方 =IKIGAIを見いだせる、新しい都市空間に なると感じています。

沓掛 : こうした新しい取り組みを、シミック さんと一緒に形にできるのは本当に楽しみ です。来る人々の生活や健康にプラスの影響 を与えられる価値が生まれることを嬉しく 思います。

中村 : オフィスとしての価値も実感してい ます。シミックグループは以前は部署がフロア ごとに分かれていて、自然な会話や交流が なかなか生まれにくかったのですが、移転 後は広い開放的なフロアで顔を合わせやす くなりました。ちょっとした雑談やアイデア交換 が自然に起き、オフィス全体が生き生きと動き始めた感じです。

沓掛 : 単なる「働き方改革」ではなく、空間 や仕組みそのものが働き方や人間同士の 関係性を変えていくという発想です。わくわく するような仕事が生まれる場になってほしい と期待しています。

中村 : その考え方は、僕たちが取り組む医療 やヘルスケアにも共通しています。病気を 治すだけでなく「どう楽しめるか」も大事です。 ここはまさに、それを体現できる場所だと 思います。

造るだけでは終わらない、 不動産に込める新たな価値

中村 : 今後の方向性についてはどうお考えですか。

沓掛 : もう一段グローバル志向を強めた いと考えています。マンション事業で培った 「お客さま志向」は、ホテル事業などにもつ ながっています。「NOHGA HOTEL」を自社 で運営したり、フェアモントをはじめとする 外資系ホテルブランドを導入したりと、多様 な展開を進めています。今後はただ造って 売ったり賃貸するだけでなく、造ったものに サービスや付加価値をどう与えるかが鍵 です。国内市場の縮小に対応するため、海外 での事業展開にに力を入れています。 海外はベトナム、フィリピン、タイ、シンガ ポール、アメリカ、ロンドンにも進出済です。 10年後を見据え「まだ見ぬ、Life & Time」をつくる成長を目指しています。

中村 : なんとも夢のある挑戦ですね。働き ながら楽しめる未来志向の環境が、ますます 重要になりそうです。企業にとって大事なの は、一体感と本音で話せる場だと思います。

沓掛 : 情熱だけでも真面目さだけでも駄目 で、世の中の変化を捉えた楽しさと生きがい が必要だと、私も強く実感しています。中村 さんの楽しさ、お元気さ。見習わねばと思います。

中村 : いやいや、それは僕のセリフです。

沓掛 : あとはやはり、目先のことに踊らさ れず、5年後10年後を見据えて、大局感を 持って挑戦し続けることが大事なのではないでしょうか。

リアルな体験こそ、 人生を変える原動力

中村 : 沓掛さんはとてもエネルギッシュで すよね。リフレッシュはどのようにされていますか。

沓掛 : リフレッシュはほとんどしません (笑)。私にとっては、回遊魚のように動き 続けること自体がエネルギー源です。そして 常に「自分事」として考える。事業について 考えるときも、自分がここに住むなら、自分 が買うなら、自分が楽しむなら、どう考え 感じるだろうか――そうした想像力が、チャージになっています。

中村 : 僕も同じです。動いていないと駄目 になってしまうんです。考えながら動き、動き ながら考えるとエネルギーが湧いてきます。 むしろ、じっとしていると逆に疲れてしまう (笑)。そんな日々の積み重ねこそ、自分にとってのリフレッシュになっているのかも しれません。最後に、若い方へのメッセージ をいただけますか。

沓掛 : 若い世代には「リアルな体験を重ね よ」と伝えたいです。バーチャルで見て、体験 した気になってはいけません。本物の経験 は、生で、ライブで、自分の五感で感じる ことで初めて人生を大きく変える力になり ます。たとえば、海外の現場を自分の目で 見たり、文化や人々と直接触れ合ったり すること。その体験は、教科書や画面の情報 とはまったく違う学びや気づきをもたらします。今、日本人のパスポート保有率は 17%と聞きました。海外に出ることを怖がら ず、もっと挑戦してほしいですね。

中村 : 本物を体験することは何物にも変え 難い価値ですよね。僕自身も、海外や現場 での経験から学んだことが、今の考え方や 判断に大きく影響しています。現場の空気 や人の熱量を肌で感じること。そうした体験 こそ、自分の人生の幅を広げ、考え方を深 める原動力になると実感しています。今日 はお忙しい中、貴重なお話をありがとう ございました。

PROFILE

沓掛 英二 Eiji Kutsukake

野村不動産ホールディングス株式会社 取締役会長

1960年、長野生まれ。1984年に明治大学政治経済学部を卒業、同年野村證券入社。新宿野村ビル支店支店長、京都支店支店長などを経て、執行役員、常務執行役員等を歴任。2012年、同社代表執行役副社長に就任。2014年より野村不動産ホールディングスに転じ、取締役副社長執行役員を経て、2015年に代表取締役社長に就任し、2023年4月、取締役会長に就任。
■ BLUE FRONT SHIBAURA :https://www.bluefrontshibaura.com/

中村 和男 Kazuo Nakamura

シミックホールディングス株式会社
代表取締役CEO

1946 年生まれ、山梨県甲府市出身。1969 年京都大学薬学部を卒業、2008 年金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。薬学博士。1969 年三共株式会社(現・第一三共株式会社)に入社し、世界的に有名なブロックバスター薬であるメバロチン(高脂血症、家族性高コレステロール血症治療薬)の開発プロジェクトリーダーを担当した後に独立。1992年に日本初のCRO(医薬品開発支援)のシミックを創業。製薬企業のバリューチェーンを総合的に支援するビジネスモデルを確立。現在では、これまでのビジネスモデルを発展させ、個々人の健康価値向上に貢献する企業を目指している。

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