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# Vol.31

「好き」を選び続けた先に、仕事と人生が重なっていく – 自分の感覚を信じて、生ききるという選択 –

増田 宗昭(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 取締役会長)× 中村 和男(シミックホールディングス創業者)

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代官山をはじめ、書店を核としたコミュニティづくりで新たな顧客体験を生み出して続けているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。
数々のプロジェクトを実現に導いてきた背景には、「好き」を軸に毎日を生ききる強い信念がありました。その姿勢は、事業のあり方にとどまらず、働き方や人生の選び方そのものにも通じています。

本対談では、増田宗昭さんの歩みをたどりながら、仕事と人生が自然に重なっていく、その思考と実践をひもといていきます。

※この対談は2025年11月27日に実施したものです。

INTERVIEW 2025.11.27

原点は家族への思い

中村 : 増田さんは、音楽・映像ソフトのレンタル店TSUTAYAや蔦屋書店など、常に新たな顧客体験を創出してこられました。まずは、生い立ちからお伺いできればと思います。

増田 : 僕は大阪府枚方市の出身で、地元では名の通った土木建設業を営む「増田組」の3代目として生まれました。創業者の祖父がやり手で、ひらかたパークなど地域のランドマークの建築を請け負って成長させました。しかし、2代目を継いだ父は人柄がよく優しい人で、連帯保証人などを引き受け、家業は次第に傾いていきました。母は名家の出だったので、親戚で集まると貧乏な家なんてうちくらいなもので、いつも肩身の狭い思いをしていました。お年玉を用意する余裕もなく、僕がもらったお年玉を別のポチ袋に詰め直して親戚の子どもたちに配っていた母の姿は、今でも忘れられません。そんな環境で育ったから「いつか自分の手で増田家を必ず立て直すんだ」という思いを自然と抱くようになり、その気持ちが僕のビジネスの原点になりました。

ライフスタイルを提案する場としての書店

中村 : やりたいことを突き詰めていった結果としての起業というよりも、根底にはご家族への思いがあったわけですね。さまざまな選択肢がある中で、創業に至った経緯を教えてください。

増田 : 大手アパレル企業の鈴屋で10年間勤めた経験が大きかったですね。鈴屋は日本のファッション専門店の草分けで、服を単なる「物」ではなく付加価値のある「デザイン」として売り出すことで大きく成長しました。しかし僕が在籍した当時は、同じようにデザインを売り出すデザイナーズブランドが登場してきた時代。変革を迫られて価格競争が進む中で、デザイナーズブランドと同じ土俵で戦うのではなく、その先にある新しい付加価値を提示しなければ生き残れないという実感が強まりました。

中村 : 当時からそのような着眼点をお持ちだったとは、本当にすごい。

増田 : そこで僕が考えたのは「ライフスタイルを提案する」ということ。デザイナーズブランドは独自の世界観のもとにそれぞれのライフスタイルを提示することで当時の若者の支持を集めたわけですが、服や車などの商品は自分らしいライフスタイルを実現するための大切なパーツであるものの、ブランドの上位概念は何かと考えたとき、生き方のサンプルを示す本や映画、音楽こそが鍵だと思いつきました。人がさまざまな世界観を選べる「ライフスタイルの場」をつくりたい。その発想と、会社員のままでは増田家の再興は難しいという思いが重なって、創業しました。

人の心と身体を近づける 「色気」ある空間

中村 : 2025年のNHK大河ドラマで脚光を 浴びた蔦屋重三郎とは関係があるのですか?

増田 : 直接の関係はないです。けれど祖父が建築業と並行して運営していた置屋の屋号が『蔦屋』だったので、増田家のアピールも兼ねてそれをいただいた形です。もっとも、祖父は吉原の蔦屋から引っ張ってきて置屋の屋号にしたのではないかと僕は推測しています。

中村 : 直接の関係はないということですが、色街文化じゃないけれど、代官山T-SITEの独特の雰囲気には、どこか色気のようなものを感じます。人の心を動かし、人を惹きつける力というか。その辺りはいかがですか。

増田 : 鋭いご指摘です。やはり、人が生き方を選ぶ原点には、生きがいや感動、自由といったシンプルな動機があって、突き詰めればそうしたすべての源流は「恋や愛」にあるのではないかと僕は思っています。実は、代官山T-SITEは自然と心が通い合うような、ロマンチックな空間を目指して作りました。イタリアの街並みとか、みなさんロマンチックだって言いますよね。

中村 : すごく大事な視点ですね。色気というのは、人を惹きつける力そのもの。いやらしさの話じゃなくて、人と人との間にちゃんと“通い合う回路”があるかどうか。色気や遊びがある場には、やっぱりいいコミュニケーションが生まれますよね。

増田 : 身体の触れ合いというと誤解されがちですが、僕は何よりもまず心が動き、心が 通い合っていることが大前提だと考えています。相手の存在を自分の一部のように思えるほどに心が結びついてこそ、はじめて身体の触れ合いも本当の深さを持つのだと思います。たとえばカフェでコーヒーを飲みたいと思う気持ちも、単にコーヒーそのものが目的なのではなく、「誰かと心を通わせたい」「気持ちのいい時間を過ごしたい」という欲求の表れです。そうした気持ちを引き出す空間こそが大切なのです。

「最高の1時間」をデザインする

中村 : 代官山で展開された書店を核としたコミュニティづくりは、前例のない挑戦ですので相当なご苦労があったと思います。こうした大きな取り組みの背景には、どのような信念や思いがあったのでしょうか。

増田 : 僕が一番大事にしているのは、顧客価値としての時間のデザインです。人が自分らしさを発見し、またここに来たいと思える気持ちのいい時間をどうつくるか。 そのためには本や映画、音楽だけでなく、建 物や緑、そこで出会う人までを含めて設計しているつもりです。代官山でも、そこに足を運べば何か素敵なことが起こりそうだと感じられるような、そしてその期待に応えるような、 そんな豊かな時間を生み出す居心地の良い 場をつくりたいと考えています。

中村 : 時間という目に見えない価値をデザインし、それをきちんと収益につなげるのは、並大抵のことではないですね。一度きりの感動ではなく、何度訪れても期待を裏切らない体験を積み重ねていく覚悟があってこそ続く取り組みで、そこにこの挑戦の難しさと面白さがあるのだと感じます。

増田 : 「こんな場をつくりたい」と夢を語る人は多いですけど、勢いだけでは続きません。 顧客価値を損なわずにどう利益を生み出すか、その視点が欠かせません。「最高の1時間」をどう実現するか。74歳の今も、四六時中そういったことばかり考えています。

中村 : まさにクリエイターの発想ですね。お話を伺いながら強く納得すると同時に、製薬業界との時間の感覚の違いも改めて感じました。われわれは新薬の開発に長い年月を要しますが、一度成功すれば特許期間で収益を確保できます。一方、増田さんたちはお客さまにとって最高の1時間を日々生み出し続け、その積み重ねが収益に直結していく。そのダイナミズムに改めて圧倒されました。

まだ理解されないものの中に、 新しさは宿る

中村 : 先ほど「四六時中考える」とお話しいただきました。増田さんご自身の、ライフスタイルの中での思考についてお聞かせいただけますか。

増田 : 朝から晩までずーっと人に会うようにしています。ものすごい量の情報をもらって、もう頭はパンク状態になって、とにかく寝る。そうすると朝、昨日仕入れた情報の並べ替えが起こって、「あ、これだ」という優先順位が見えてきます。誰かの何気ない一言がプライオリティの1番だったりする。そうするとそのフレーズからアイデアがあふれてくるので、それを全部音声や文字として残しています。

中村 : ライブ感があって、増田さんらしいですね。

増田 : たとえば、昨日会った人が言ったキーフレーズは「解釈は遅れる」。大阪・関西万博なんてまさにいい例です。当初はとても叩かれていましたが、蓋を開けてみれば大盛況。エッフェル塔も、パリの景色をつぶすと猛反対されていたにもかかわらず、今やパリのシンボルです。だから、みんなに理解されるようなものは、その時点で新しくないのです。僕が代官山T-SITEを作ったときもそうでしたけど、全員に反対されました。「今時、リアル書店?」「街づくり?収益は上がるのか?」といった声が上がり、加盟店からも「CCCは終わったな」と言われるほどでした。

中村 : 当時は理解されなくても、未来の価値を先に信じて投資していたということですよね。代官山T-SITEにきて僕が感じたのは、その想いが空間そのものに息づいていることです。ガラス越しの光や周囲の緑が自然に溶け合い、新しい風景を生み出している。不思議とリラックスできて、同時にアイデアが湧いてくるような感覚がある。説明しなくても伝わる心地よさや細やかなこだわりがにじむ、誰にとっても開かれた場所をつくっているのだと思います。

自由は、今この瞬間にある

中村 : もし自分がもう一人いたとしたら何 かやってみたいことはありますか。

増田 : ないです。今日やりたいことは全部 やっているので。僕はすごく単純で、今日が楽しいことがすべてだと思っています。人生には限りがあるから、建前なんて要らないのだと。若いときは永遠があるように錯覚するけれど、 結局みんな歳をとって死ぬでしょう。だから 「一生懸命やります」なんて言わなくていいの かな、と。今日を楽しく生きれば、それで十分 だと思います。

中村 : 人生には無限の選択肢があるわけではないし、過去や未来ばかりに囚われていても、結局は今日の1日しかありません。その今日をどう生きるかが、仕事や人生の豊かさに直結する。だから、自分の感覚や直感に従って行動することが、最もシンプルで、そして本質的な自由の形だと思うのです。増田さんの考え方にすごくシンパシーを感じます。

増田 : そうですね。まさにその感覚、僕も共感します。実は、初めて中村さんに会ったときの第一印象は「自分とそっくりだな」でした(笑)。中村さんはとにかく素直。やろうと思ったことはちゃんとやって、やめると決めたらやめられる。これって自由そのものですよね。多くの人はそれができず、やりたくないことを続けたり、やめるべきものをやめられなかったりする。それを、理屈をこねまわすのではなく、ご自分の直感を信じてやりきっているところがすごいなと。また、僕もそうありたいと思っているし、自分の鏡のようにも感じます。

中村 : 光栄です。自由って、何かを手に入れ ることでも、縛りから逃げることでもなくて、今日という1日を自分の感覚で生ききることなんだと感じます。今この瞬間に向き合い、そのときどきでベストを尽くす。その積み重ねが人生なのだと思います。

「好き」を選び続けることで、 見えてくる生き方

中村 : 最後に、若い世代へのメッセージを いただけますか。

増田 : やりたいことを見つけることが一番 大事です。Howはあとから学べますが、自分が何に幸せや生きがいを感じるかという、エンジンの部分だけは自分でしか見つけられない。僕にとって企画という仕事はまさに生きがいで、旗を掲げれば人が集まり、「企画って楽しいよね」と一緒に盛り上がれる。世の中は本当は単純なのに、みんな考えすぎてそれを見失ってしまっているように思います。だから僕は創業時に「5W1Hに“好き” を足す」と決めました。好きな人と、好きなことを、好きなようにやる。嫌いな人とは組まない。そうすると、毎日が日曜日になるんです。

中村 : 僕もそう思います。自分の「好き」を信じて進むと、面白いものが生まれるし、自然と面白い人が集まってきて、物事が回り始める。ただ一方で、どんなに自分が相手を好きでも、それだけでは選ばれないこともある。相手から「一緒にやりたい」と思ってもらえる存在であること。そのために、自分の軸を大切にしながら、相手にとっての 価値や魅力を磨き続けることも同じくらい大事だと思います。

増田 : それに加えて大事なのは、やっぱり時代の流れを読むこと。流れのある方向に仕掛けをしておけば絶対結果は出ます。世 の中が向いていない方向にいったら外れるのは当たり前だし、継続性がなくなる。だからある意味、企画そのもの以上に時代の流れを読むというのは大事なことです。

中村 : 増田さんの感性には本当に感服しました。自分の「好き」を信じて生ききることの大切さを、改めて教えていただいた気がします。今日のお話では、仕事の話というより「どう生きるか」を考える時間をいただきました。貴重なお話をありがとうございました。

PROFILE

増田 宗昭 Muneaki Masuda

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
取締役会長

1951年 大阪府枚方市生まれ。
1983年に「蔦屋書店」を創業、1985年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)を設立し、企画会社をスタートさせる。同時に代表取締役社長就任。2024年より事業を後進に任せ、CCC取締役会長に就任(現任)。

中村 和男 Kazuo Nakamura

シミックホールディングス株式会社
創業者

1946 年生まれ、山梨県甲府市出身。1969 年京都大学薬学部を卒業、2008 年金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。薬学博士。1969 年三共株式会社(現・第一三共株式会社)に入社し、世界的に有名なブロックバスター薬であるメバロチン(高脂血症、家族性高コレステロール血症治療薬)の開発プロジェクトリーダーを担当した後に独立。1992年に日本初のCRO(医薬品開発支援)のシミックを創業。製薬企業のバリューチェーンを総合的に支援するビジネスモデルを確立。現在では、これまでのビジネスモデルを発展させ、個々人の健康価値向上に貢献する企業を目指している。

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