# Dr.Mochizuki’ s Column

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# Vol.23

心電図あれこれ

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アイントホーフェンが作った心電計は巨大です。350kgもあります。記録した心電図は、今の心電図としても使えるほど遜色ないです。心電図記録紙はアイントホーフェンが提唱したものが現在も変わりなく使われています。図2は100年以上前にアイントホーフェンが記録した心電図です。半導体はもちろん真空管もない時代に心電計を作り心電図を記録したアイントホーフェンを心より尊敬します。

前号でオランダのライデンにある「ブールハーフェ博物館」の事を紹介しました。この博物館にアイントホーフェンの作った心電計(図1)と心電図(図2)が展示されています。

アイントホーフェンが作った心電計は巨大です。350kgもあります。記録した心電図は、今の心電図としても使えるほど遜色ないです。心電図記録紙はアイントホーフェンが提唱したものが現在も変わりなく使われています。図2は100年以上前にアイントホーフェンが記録した心電図です。半導体はもちろん真空管もない時代に心電計を作り心電図を記録したアイントホーフェンを心より尊敬します。

図1:アイントホーフェンが作った心電計(著者撮影)
図2:アイントホーフェンが記録した心電図

心電図は心臓の状態を把握するために記録します。簡単な検査ですが、そこから得られる情報は膨大です。それゆえに、発明されてから100年以上も経った今でも、心電図に関する論文や教科書が毎月のように発表、出版されています。新しい心臓病が心電図によって見つかる事もあります。

「心電図」に関する発見は多いのですが、「心電計」に関する発見は多くありません。心電計はアイントホーフェンの「原理」を基に作られています。Apple Watchの心電計も、100年前のアイントホーフェンの心電計も、原理は同じです。

私は心電計について珍しい現象が生じる事を見いだし、その事を「The Annals of Thoracic Surgery」という雑誌に投稿しました1)。導電性のないポリエステルフィルム を胸に貼り、その上に心電図電極を置いても心電図は記録できません。しかし、その導電性のないポリエステルフィルムにイソジン®を塗ると心電図が記録できるのです。 不思議な現象です。

これを機に心電図の原理を学ぼうと思いアイントホーフェンの論文を収集しました。彼の論文は微分、積分、物理学を駆使して「心電計の原理」を考案しています。私が発見した「電極と皮膚の間の電気抵抗が大きく違っても心電図の記録に差がない」事も「心電計の原理」から説明できる事がわかりました。

「心電計の原理」を詳細に解説した書籍は多くありません。物理学、数学の知識がないと解説できないからです。日本では故・本橋 均の著書2)が唯一無二です。同書には原理の他にも興味深い事が書かれています。中でも驚いたのはアイントホーフェンの長男が東京大空襲で亡くなっていると書かれていた事でした。 長男の名前はウィレム・フレデリック・アイントホーフェン(Willem Frederik Einthoven, Jr.:以下、子アイントホーフェン)。彼は電気工学者で、父と共に心電計の改良を行っていて、アイントホーフェンのノーベル賞受賞講演でも、その改良について触れています。

その彼が東京で亡くなっていたと記されていますが、資料が見つかりませんでした。先年、偶然、この間の事情について記された小宮まゆみ氏の書籍3)を「発見」しました。この本には太平洋戦争中、日本に連れてこられた民間人捕虜の事が紹介されていて、その中に子アイントホーフェンが東京で亡くなった経緯が書かれていました。東京大空襲ではなく、肺炎で亡くなっていたのです。戦後、民間人捕虜を使役していた事は戦犯問題となり、その関連資料は秘匿されていたのです。

子アイントホーフェンは、オランダ領だったインドネシアで通信関係の仕事をしているときに日本軍の捕虜となり、東京に家族と一緒に移送され、陸軍の研究所で使役されます。後年、それはレーダー開発のためだった事が判明しますが、実際には研究所長の配慮でレーダーの開発からはかけ離れた仕事をしていた事がわかっています。彼は、1945年2月、肺炎によりその生涯を東京で閉じています。

子アイントホーフェンを東京で最初に診察したのは、アイントホーフェン医師に会った事がある聖路加国際病院の池田泰雄医師でした。名前から、アイントホー フェン医師に家族がいる事に気づいて、親切な対応をしたという記録が残っています。

心電計にまつわるあまり知られていない話です。この間の詳しい事情を論文にしました4)。インターネット上でどなたでも読めます。お読み頂ければ幸いです。

【参考文献】
1) Mochizuki Y et al.: Ann Thorac Surg vol.67, no.4, pp.1184-1185, 1999
2) 本橋 均 著(1969)『絃の影を追って:W. Einthovenの業績』医歯薬出版
3) 小宮まゆみ 著(2019)『敵国人抑留:戦時下の外国民間人』吉川弘文館,pp.173-176
4) 望月吉彦『心電計の発明者アイントホーフェン医師の共同研究者だった同医師の子息が太平洋戦争下の東京で亡くなっていたことに関する考察』心電図, vol.41, no.1, pp.30-39, 2021 図1:アイントホーフェンが作った心電計(著者撮影)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/41/1/41_30/_article/-char/ja/

Profile

望月 吉彦 Yoshihiko Mochizuki

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック

医療法人社団エミリオ森口 理事長 芝浦スリーワンクリニック 院長

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