# 多様性

# Diversity & Inclusion

# Vol.17

「いざ介護」の前に「いま準備」で仕事と介護が両立しやすい環境づくりを

#多様性   #インタビュー  

介護保険法による介護保険制度が2000年にスタートしてから20年。この間、日本の高齢者率は上昇し続け、2030年には人口の約1/3が65歳以上の時代に突入すると言われています。親の介護はいずれ多くの人が直面する問題です。今回は、企業の介護研修に長年携わっている社会保険労務士の新田香織先生にお話を伺いました。

働きながらの介護が増えている

金丸 : 75歳以上のうち、3人に1人が介護や何らかの支援が必要になると言われています※1。日本の介護の現状についてお聞かせいただけますでしょうか。

新田 : 介護を必要とする人は増えている一方、共働き世帯がかなり増え、さらに子どもの数が少なく未婚率も上昇していますので、働きながら親を介護せざるを得ない人が多くなっています。介護している人のうち、男性は65%、女性は50%近くが仕事をもっており※2、1人で日常生活を送るのが難しい親を抱えている介護予備軍も増えているのを感じます。

金丸 : 介護による離職者はどのくらいいるのでしょうか。

新田 : 年間約10万人いると言われています※2。実際に離職した方に伺うと、「知識も準備もないのに介護に直面して何をすればよいかわからなかった。とりあえず会社を休んだが、時間だけが過ぎていき、会社にも迷惑がかかりそうなので辞めるしかなかった。」といったケースも多くみられます。いざ、介護に直面したときに、慌てないよう 事前準備しておくことが大事です。

金丸 : 介護は育児と違い、いつ直面するのかを予測できませんからね。親と離れて暮らしている場合も、介護の初動をうまく乗り切れるのでしょうか?

新田 : 遠距離介護のケースはいくらでもあるのですが、介護や福祉の制度は複雑ですので、事前に調べておいたり、ケアマネージャーに相談して上手くやっていく方法を探していきます。また、介護休業などの制度を活用して介護を軌道に乗せるまでの期間にすると良いでしょう。

オープンにできる職場づくりとテレワークの推進

金丸 : 介護を理由とした休職者はあまり多くないのですが、実は介護が理由で辞めている方や他の理由で休んでいる方がいるのかもしれません。どうしたら、こうした方をサポートできるでしょうか?

新田 : そうですね。「両立を支援したいので大変な人は教えて下さい。」と会社の姿勢を伝えるのも良いでしょう。介護はお互い様のことなので、皆で協力していくためにもオープンにできる雰囲気づくりが大切です。またテレワークの推進をしたいところです。コロナ禍で親がデイケアに行けない中、自宅でテレワークしながら介護し たケースもありました。

金丸 : テレワークが一気に進んだことで両立が可能になったのですね。

新田 : 昨年の話ですが、遠距離介護の初動でテレワークを上手く活用した事例もあります。東京在住の方で北海道に住む父親の様子がおかしいとわかった後、2 回に分けて計3 週間、ご実家でテレワークしながら今後のことをシミュレーションしたそうです。仕事の休憩時間や朝夕に情報収集し、父親と介護の希望を話し合い、役所や親戚とも相談しながら父親を東京に連れてくる準備をひととおり終えました。「テレワークがなかったら相当厳しかった」とおっしゃっていました。週末だけ遠方介護に行かれる方も金曜や月曜にテレワークするだけで楽になりますので、介護離職者を減らすのに役立つと思います。

事前準備が両立を楽にする

金丸 : 準備について教えて下さい。

新田 : 持病、常用薬、かかりつけ医、生活必需品の置き場所など親の暮らしぶりを知っておきましょう。近所の方や親戚と友好な関係を築いておけば、いざという時の支えになってくれます。自治体によっては要介護認定されていなくても使える支援がありますので調べていただき、少しずつ使っておくと、介護が必要になったときに地元のケアマネージャー、ヘルパーさんにも自然と頼れるようになると思います。年金額など親の経済面も把握しておきたいところです。一緒に施設見学に行く機会があれば、毎月支払える金額や親が望む生活スタイルなど突っ込んだ話もしやすいと思います。

金丸 : 普段からの会話が大切ですね。

新田 : 親戚が入院したときに、「うちはどうしたい?」と聞いてみても良いですね。また、社会福祉協議会で介護ボランティア、介護タクシーなど地域の様々な福祉情報を集めておくと良いでしょう。介護保険のサービスと自治体や社会福祉協議会のボランティアサービスを組み合わせて使うことができます。

金丸 : 親の住む自治体のサービスを調べておくと、いざというときに慌てないで済みますね。介護と仕事の両立はとても厳しいイメージがありましたが、お話を伺い、少し知識が増えただけで気持ちが楽になってきました。

新田 : セミナーで「帰省時に調べてみて下さい。」と言いますと、皆さんの意識が高まってくるのを感じます。「実は私、介護中です。」と介護の話を共有できる人が見つかることもあります。

金丸 : それをきっかけに介護について分かち合えるような集まりができると良いですね。

新田 : 普段から親の様子を伺い、両立する方法を思い描いておくことで、準備するべきことが見えてきます。また、社内に介護している人がいれば協力し合うのが当然という意識をもち、我が事のように皆で支えていくことが大切だと思います。

金丸 : 意識することが協力の第一歩ですね。仕事と介護の両立がとても身近に感じられるようになりました。弊社の社員にとっても介護を身近に考えるきっかけになると思います。ありがとうございました。

※1 平成27年 厚生労働省 介護保険事業状況報告
※2 平成29年 総務省 就業構造基本調査

Profile

新田 香織 Kaori Nitta

社会保険労務士法人グラース 代表 多様な働き方コンサルタント

自治体主催の研修や企業セミナー、公共機関との連携による両立支援コンサルティングを通じて誰もがイキイキと働ける職場づくりに寄与するため、多様な働き方が可能な制度や運用、職場の意識情勢を社労士の立場から提案・啓発している。

社会保険労務士法人グラース : https://grasse-sr.com/

金丸 恭子 Kyoko Kanamaru

シミックホールディングス株式会社 執行役員 グループダイバーシティ推進担当

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