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# Vol.26

こんなにも違う!欧米と日本のギフトマナー

西手 夕香里(通訳・翻訳修士)

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通訳の仕事で多くの国を訪れましたが、長期滞在した国はカナダと米国ですので、この記事では主に北米と日本のギフトマナーの違いについて書きたいと思います。

北米で一番ワクワクする季節は、ホリデー・シーズンです。米国のホリデー・シーズンは、1 1 月下旬の感謝祭(Thanksgiving Day)から始まり、年明けの1月初旬まで続きます。クリスマスイルミネーションの季節になると、個人宅も含めて、至るところで素晴らしいライトアップが見られます。普段は離れて暮らす家族が集まり、ツリーを飾り、クリスマスクッキーを焼き、ボードゲームやクリスマス映画を楽しみ、ジンジャーブレッドハウスやごちそうをつくるのが、一般的な過ごし方です。クリスマスは恋人や友人と出かけることが多い日本とは対照的です。

また、Thanksgiving Day(11月の第4木曜日)の翌日の金曜日(2024年は11月29日(金))はブラックフライデーと呼ばれ、1年の中で最も買い物が行われるクリスマス商戦、ホリデーセールの開始日とされています。この時期のセールでは爆発的な売上で小売業各社が黒字になることからその名がついたとされています。日本ではプレゼントを渡すとき、商品から値札やタグを取り除くのが一般的ですが、欧米では「ギフトレシート」が一般的です。金額が載っていないレシートで、もしも贈り物が気に入らなかったり、サイズが合わなかったりした場合に、受け取った人が自分で交換できるように同封されます。一部の店舗ではギフトカードでの返金にも対応しています。

ラッピングの概念も異なります。日本では、プレゼントを開ける際には慎重に包みを開け、その後包装紙やリボンを大切に取っておくことも多いでしょう。これは、「贈り物=内容+包装+お店などの価値+相手の手間」という感覚に根ざしています。対照的に、北米では「贈り物=中身・メッセージ」という考え方が主流で、他の要素は単なる入れ物と見なされます。中身が最も重要視されるため、包装は簡素であり、ビリビリと開けられても驚きません。むしろ、ビリビリと破いて中身を取り出し、大喜びするところを動画に収めて、のちのち家族で見返して楽しみます。

ホリデー・シーズンのもうひとつの要素に、クリスマスカードを送る習慣がありますが、米国では多様な宗教に対応できるよう変化してきました。今では個人も、企業や団体もその多くが、クリスマスをお祝いしない人への配慮から、“MerryChristmas”ではなく、“Happy Holidays”や“Season’s Greetings”といった文面の一般的なカードを送るようになっています。

日本の習慣で驚かれるのが、「現金」を渡すことです。たとえば、同僚が結婚すると祝儀を、取引先の人が亡くなると香典を渡すのが一般的で、その相場も決まっています。しかし、欧米では友人やビジネス関係者に現金を渡す習慣がなく、これが不思議に思われることがあります。欧米では、結婚に際しては当事者夫婦が式の前にパーティーを開き、そこで自分たちが欲しいプレゼントを贈ってもらうようにするのが一般的です。

結婚祝いは「ブライダルシャワー」、出産祝いは「ベイビーシャワー」と呼ばれます。プレゼントは贈り主が自分で選ぶか、夫婦が作成したリストから購入します。夫婦は欲しいものを事前にリスト化し、複数のお店でオンラインレジストリーを作成します。プレゼント文化が主流なので、多くの店舗は独自のレジストリ―システムを持っています。このリストをオンラインで作って、サイトのリンクをブライダルシャワーやベイビーシャワーの招待状に一緒に挟んで、希望アイテムを購入してもらう仕組みです。レジストリーはカテゴリーや価格ごとに見ることができ、出費を抑えたい参加者はお値打ちの物を選ぶことができます。逆に両親など、ある程度身近な人は、高額なプレゼントを持参することが一般的です。

以上、北米と日本のギフトマナーを紹介しました。両者の違いを認識し、郷に入っては郷に従えを心がけることは大切ですが、ギフトレシートやレジストリーなど、相手にとって一番良いものを贈りたいという発想は、日本の現金を送る習慣にも通じると感じます。周りの大切な人に思いを寄せ、お世話になっている方の笑顔を思い浮かべながらギフトを贈る……そんな幸せな瞬間がたくさん訪れる一年でありますように。

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PROFILE

西手 夕香里 Yukari Nishide

通訳・翻訳修士

日米企業の社内通訳として11年間の経験を積んだのちに独立。フリーランスとして規制当局によるGxP 査察を中心に医薬品分野の通訳に関わる。2016 年にシミックグループに入社。現在、多数のプロジェクトで通訳・翻訳者として活躍中。

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