# HIRAKU’s VIEWPOINT

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# Vol.16

スパングリッシュ

Hiraku(中村キース・ヘリング美術館ディレクター)

#コラム  

私が育ったのはニューヨークの中でも、皆さんが想像する自由の女神やウォール街とは地理的にも社会的にも真逆にあるブロンクス区。低所得層の黒人やラテン系の人々が多く居住していて、街角には薬物中毒者、ホームレスなどが徘徊し、アメリカ社会からは目を伏せられた場所です。

私が育ったのはニューヨークの中でも、皆さんが想像する自由の女神やウォール街とは地理的にも社会的にも真逆にあるブロンクス区。低所得層の黒人やラテン系の人々が多く居住していて、街角には薬物中毒者、ホームレスなどが徘徊し、アメリカ社会からは目を伏せられた場所です。私はずっとそれが普通のアメリカだと思っていましたが、のちに私の住んでいたところは特殊な場所であった ことに気づかされました。

その「違い」に初めて気づいたのは中学校の春休み。オハイオ州に住んでいる友だちを訪ね、初めてブロンクスを出たときでした。彼の友だちはみんなテレビドラマや映画 に出てくるような白人の男の子たち。私が話したことのある白人は学校の先生だけで、同世代の白人との会話はほぼ初めてでした。

自己紹介をすると、「何のスポーツしてるの?」「どんな音楽が好き?」「友だちと放課後は何してるの?」などと質問をされました。ブロンクスでは「(人種の)バックグラウンドは?」「好きなラッパーは?」「スペイン語喋れる?」という質問をよくされます。友だちからの質問に答えた瞬間「変わった英語だね」と言われ、その時はその意味がよくわからず話し続けていたところ 「スペイン語で話してるの?」と聞かれました。英語を話しているはずなのに、なぜ伝わらないんだろうと疑問を抱いたまま、ニューヨークに戻りました。

学校が始まって、ブロンクスの友だちにその経験を話したところ、みんなも笑いながら肩をすくめました。途中で黒人の友だちが話に加わってきて「君はよくスペイン語で話しているから、ラテン系以外の人にはわからないのだろう。」と言うのです。なんと私が英語だと思って使っていた言葉の中には、スペイン語が混ざっていたのです。私の友だちはほとんどがプエルトリコやドミニカ共和国などにルーツをもつスペイン語圏のラテン系の子どもたちで、彼らは英語とスペイン語が混ざった「スパングリッシュ」といわれる言葉を話します。

みんながその言葉を話すので、日本から移住し、私が学んで話していたのもスパングリッシュだったのです。 日本でも同じ現象は起こりますよね? 例えば地元の方言 を標準語だと思って使うと、他の地方出身者に「何それ?」と言葉が通じなかった経験をもつ人も多いのではないでしょうか。実際、私も山梨県に住んでみて、「この人は何を言ってるんだろう?」と思うことがよくあります。

このように、日本に住んでいても、アメリカに住んでいても、 人によって方言や言語、文化や風習の違いはあるものなのです。インバウンドの観光客やクライアント、同僚に外国 人が増えていく世の中で、外国人をひとくくりにし、対応をマニュアル化してしまうと、思い通りにいかないこともあります。自分の知っている枠に当てはまらない人を目の前にしたとき、その人に合わせた柔軟な対応ができるようにグローバリズムやダイバーシティに挑んでください。

PROFILE

Hiraku

中村キース・ヘリング美術館ディレクター

ニューヨーク育ち。2014 年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQ の可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。

https://www.nakamura-haring.com/

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