# ヘルスケア

# Healthcare

# Vol.29

海外生活における子どものメンタルヘルス

ー親も子も「知らない」ということを「知る」ことが、心のケアのはじまり

#Healthcare   #IKIGAI   #カルチャースイッチ   #メディカル   #コラム  

最近よく聞くようになったメンタルヘルス。
「病は気から」という言葉にもあるように、心の健康は身体の健康を保つうえでもとても大切です。実際、アメリカでかかりつけ医を受診する人の60~90%の症状が、メンタルヘルス関連*だともいわれています。昨年2024年9月に統合失調症の新しい作用機序を持つ薬がFDAに承認されたことからもわかるように、近年、製薬業界ではメンタルヘルス分野で革新的な薬の開発が進んでいます。もしかすると、今後は薬剤による治療がもっと身近になっていくのかもしれません。でも、やはり薬に頼る前に、自分の変化に気づいて、心身ともに健康な状態を維持できるのが一番ですよね。

*:https://edition.cnn.com/audio/podcasts/chasing-life/episodes/b17cd6e4-37bb-11ef-8219-130321484913

春から新たな生活を始められている方も多いのではないでしょうか。

新しい環境には、たくさんの発見や出会いがあり、刺激にあふれています。その一方で、“五月病”という言葉があるように、環境の変化によって知らず知らずのうちに大きなストレスを抱え込んでしまうこともあります。それは、言語や習慣が異なる海外では、なおさらだと思います。

新たな環境でメンタルヘルスに変調をきたすのは子どもも同じです。いえむしろ、大人より多感な子どもの方が、影響が大きいともいえます。そこで今回は、ニューヨークで日本人向け教育相談やかかりつけ医をされている方々にお聞きしたお話も踏まえて、学齢期のお子さんを持つご家庭のケースをもとに、“海外生活における子どものメンタルヘルス”を考えてみたいと思います。

メンタルヘルスの分野では、一般的な治療と比べて、文化的な背景や価値観を理解することが特に重要だと感じます。これは、大きな特徴のひとつともいえるでしょう。たとえば、アメリカの現地校に通う日本人の子どもたちは、学校で1日の大半を過ごし、アメリカ人の友人宅に遊びに行くこともあるため、アメリカ式の子育てや感情表現にも慣れています。そのような環境にいる子どもにとって、日本的な「控えめな褒め方」は、時に十分に伝わらず、自信をなくしてしまうことがあります。

アメリカでは「子どもの良いところを積極的に見つけて、しっかり褒めて伸ばす」という考え方が主流のため、日本的な褒め方が伝わりにくく、子どもが「家ではあまり褒めてもらえない」と感じてしまうこともあるのです。

大げさに褒めろということではありません。大切なのは、褒め方にそういう違いがあり、子どもが日本人の褒め方をネガティブに受け取らないように補ってあげることが重要となります。たとえば、父親の褒め方が少し控えめだったとしても、母親から「あれでもお父さんなりに頑張って褒めていたよね」と解説してあげることで、子どもはそのニュアンスを理解しやすくなります。

逆に、そのサポートがないと、家では褒めてもらえないと感じるようになってしまいます。このように、文化の違いがメンタルヘルスに与える影響は大きく、日常のちょっとしたサポートが子どもたちの心の安定につながることもあるのです。

また、多くの現地校では、日本人の子どもの心の不調を「単なる言語の壁」と捉えてしまい、メンタルヘルスの問題として扱われにくい傾向があります。けれども、母国語以外で生活するなかで、自分自身の“想い”を自由に表現できないことは大きなストレスになります。そのため、心の不調が見過ごされやすく、対応が遅くなることには、注意が必要です。さらに、アメリカではサポートを受けたい場合、日本よりも保護者が積極的に行動する必要があります。

新天地での生活は親にとっても戸惑うことが多く、海外での生活となると、その戸惑いはさらに大きくなるかもしれません。
子どもたちは、現地校や地域コミュニティになじもうとしながら日本語を維持しなければならず、初めての外国語環境のなかで少しずつ適応していく必要があります。そのような状況では、十分な休息時間も確保しにくくなりがちです。もし子どもが「疲れた」、「朝スッキリ起きられない」と言っていたら、それは心や体のSOSサインかもしれません。

保護者としては、子どもが家庭や学校、地域社会、あるいは帰国後の受験など、さまざまなプレッシャーやストレスを抱えている可能性があることに気づいておくことが大切です。もし子どもが笑わなくなったり、日常生活から引きこもるようになったり、以前は興味を持っていたことに関心を示さなくなった場合は注意が必要です。

これらのケースは、海外で暮らす子どもたちにみられるメンタルヘルスの課題について紹介しましたが、実はこうした問題は、私たち大人にも当てはまることが多いですよね。それに、私たち大人も日々のビジネスシーンで「言葉の壁」を感じることは少なくありません。さらに、大人自身の心に余裕がないと、その空気は自然と子どもにも伝わってしまいます。子どもへの褒め方と同じように、夫婦の間での声かけやねぎらいも、とても大切なテーマだと思います。

一方で、海外生活では家族で過ごす時間が増える分、家族の絆を深める機会にもなります。新しい環境だからこそ、家族でもお互いの気持ちを尊重しながら、新しい「IKIGAI」を見つけて、楽しみながら過ごしましょう。

PROFILE

武田秀俊 Hidetoshi Takeda

シミックホールディングス株式会社CEO補佐

米国在住。 金融・監査・投資分野での豊富な経験を経て、2016年よりシミックグループの米国事業や財務戦略を担当。ニ ューヨークの日本語メディア「DAILYSUN NEW YORK」運営を通じて、現地日本人コミュニティの活性化にも取り組む。 2024年12月より、ニューヨーク育英学園の理事長に就任し、日米の教育機関や企業との連携を強化しながら、グローバル人材の育成に尽力している。

https://www.dailysunny.com/

Healthcare

ヘルスケアバックナンバー

ヘルスケア CMIC vol.28

日本におけるドラッグラグ・ロス問題の取り組み

すでに世界には、病気が治る薬があるのに、なぜ先進国である日本では使えないの?

#Healthcare   #未来をつくるシミックの挑戦   #CRO   #コラム  

お仕事紹介 ヘルスケア CMIC vol.23

CRA(治験開発モニター)のお仕事:草創期、そして現在

#未来をつくるシミックの挑戦  

#BACK NUMBER

前回のヘルスケア

ヘルスケア CMIC vol.28

日本におけるドラッグラグ・ロス問題の取り組み

すでに世界には、病気が治る薬があるのに、なぜ先進国である日本では使えないの?

#Healthcare   #未来をつくるシミックの挑戦   #CRO   #コラム  

# LATEST ARTICLES

最新の記事

特別対談 CMIC vol.29

予防型保険で保険の常識を変える -入って健康になる保険を目指して

小森 伸昭(アニコム ホールディングス株式会社 代表取締役)× 中村 和男(シミックホールディングス代表取締役CEO)

#特別対談   #インタビュー  

多様性 座談会 CMIC vol.29

【 座談会 】チームの力を引き出すマネジメント :リーダーたちが語る現場での実践

シミックヘルスケア・インスティテュート株式会社

#Respect each other   #新たな働きかたのヒント   #多様性   #インタビュー   #コミュニケーション  

W&3C vol.29

時流に合わせ、絶えず変化し続けてきた能 – 変えるべきもの、変えてはいけないもの

能楽師シテ方金剛流  宇髙 竜成

#コラム   #伝統文化・伝統工芸   #Change