多様性の時代だからこそ、怒りを通じて相手側の景色を想像しよう -アンガーマネジメントで互いの違いを楽しむ-
インタビュー:戸田 久実氏(アドット・コミュニケーション株式会社 代表取締役、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事)
# 多様性
# Diversity & Inclusion
# Vol.16
近年、ビジネス雑誌や新聞・テレビでも取り上げられるようになってきたアンコンシャス・バイアス(unconscious bias)。なぜ、今、注目されているのでしょうか。その最大の理由は、組織の発展において、多様性が重要になってきているからです。画一的なマネジメントでは、一人ひとりがイキイキと活躍することはできません。根拠のない思い込みから人間関係を悪化させたり、チームワークを阻害したりしてしまう可能性もあるのです。今回は、日本におけるアンコンシャス・バイアスの第一人者である経営コンサルタントの守屋 智敬先生にお話を伺いました。
Index
アンコンシャス・バイアスとは、日本語では「無意識の思い込み」「無意識の偏見」「無意識の偏ったものの見方」など、さまざまな言葉で表現されている概念です。相手にとって良かれと思ってやったことなのに裏目に出てしまったり、そんなつもりは全くなかったのに傷つけてしまったりした経験はありませんか? 理由はとてもシンプルです。それはあなたと相手との間に、「解釈のズレ」が生まれてしまったから。解釈のズレが相手の中に不快な感情を生み、結果として人や組織に大きな影響を与えてしまうのです。
たとえば日頃、次のようなことはありませんか?
・血液型で性格を想像してしまう
・出身地でお酒が強いかどうかを想像することがある
・「単身赴任中」と聞くと父親が単身赴任中だと思う(=母親を思い浮かべない)
・「普通はxxxだ」「たいていxxxだ」という言葉を使うことがある
実はこれらすべてがアンコンシャス・バイアスに影響を受けてのことなのです。
ただ、アンコンシャス・バイアスは誰にでもありますし、それ自体は問題ありません。問題は自分のアンコンシャス・バイアスに気づこうとしないことにあるのです。 その正体はずばり、「自己防衛心」です。これは、脳がストレスを回避するために、 「私は正しい」「私は悪くない」といったように、自分にとって都合のよい解釈をしてしまうことから生まれています。
アンコンシャス・バイアスは無意識であるため、なかなか自分では気づきにくいものですが、「決めつけ」や「押しつけ」の言動となってあらわれます。自分の都合を優先したり、自分の要望を叶えようとしたりするときに、人は知らず知らずのうちに、つい「決めつけ」や「押しつけ」といった言動をとってしまうのです。
たとえば職場でこう思うことはありませんか?
・「難しいことは言ってないと思うんだけど?」
・「まさか、こんなことも知らないの?」
・「普通に考えたら・・・」
・「そんなはずはない」
・「これくらいできて当然」
ここでたくさんのチェックがついても全く問題ありません。
こうした言動に「気づくかどうか」「気づこうとする意識があるかどうか」が何より大切だからです。一つも当てはまらない人もいるかもしれません。 そういった人は、ぜひ「自分には別の思い込みがあるかもしれないなぁ」と考えてみたり、「職場の同僚や上司、家族や友人にこういった思い込みを持っている人がいるかもしれない」と自分自身に問い続けてほしいと思います。
「私は大丈夫」、「私は関係ない」と思ってしまったらそこで終わりです。一人ひとり、その時々に向き合うことが大切です。自分の価値観からいったん離れて、相手の価値観に歩み寄ってみましょう。
あなたは次のように言われたらどう感じますか?
「真面目な人ですね」
実はこの言葉は、人によって印象が大きく異なります。 「うれしい」と思う人もいれば、「つまらない人だと言われてショック」と思う人もいます。 仕事を一緒にしているメンバーに言われるとうれしい気もするけど、友達には絶対に言われたくないセリフだ、という人もいるのです。一方で、何も感じないという人もいるかもしれません。
同じ言葉でも、それを受け取った人の「過去の経験」や「価値観」などによって印象が異なるのです。相手にとって良かれと思って伝えたつもりの言葉でも、それがどう受け止められるのかは相手次第です。相手がどう感じたか?という「心のあと味(快・不快)」は、一人ひとり、その時々によって異なります。「たとえ100人が同じでも101人目は違うかもしれない」のです。
研修や講演をしているとよく次のようなことを聞かれます。
「相手にアンコンシャス・バイアスを気づいてもらいたい。気づかせる方法はありますか?」私の答えは「その方法はありません」です。ご自身が、「こんなアンコンシャス・バイアスに気づいた」ということを、「私」を主語にして話すことはいいことです。ただ、それを相手に押しつけることはおススメしません。 「あなたには思い込みがあって、偏ったものの見方をしていますよ!」と決めつけられたり、指摘されたりしたら、相手はどう思うでしょうか? 心を閉ざしてしまうかもしれません。
この概念を知った一人ひとりが起点となり、自らの「アンコンシャス・バイアス」を積極的に開示する姿や、自分が変わろうとする姿を見せることは、やがて周りを巻き込んでいくことへとつながり、社会がより良くなっていくことにつながると信じています。まずは自分自身の「無意識の思い込み」に気づくことが大切なのではないでしょうか。
Profile
守屋 智敬 Tomotaka Moriya
株式会社モリヤコンサルティング代表取締役 一般社団法人アンコンシャス・バイアス研究所代表理事
1970年大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了後、都市計画事務所を経て、1999年人材系コンサルティング会社の立ち上げ期に参画。数多くのリーダーシップ研修を提供。2015年(株)モリヤコンサルティングを設立。管理職や経営層を中心に5万人以上のリーダー育成に携わる。2018年には、一人ひとりがイキイキする社会を目指し、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。アンコンシャス・バイアス研修の受講者は5万人を超える。
モリヤコンサルティング : https://www.moriyatomotaka.com/
アンコンシャスバイアス研究所 : https://www.unconsciousbias-lab.org/
金丸 恭子 Kyoko Kanamaru
シミックホールディングス株式会社 執行役員 ダイバーシティ推進担当
守屋先生のお話を受けて
守屋先生のお話のなかで、相手の「心のあと味」に目を向けるという言葉が印象的でした。人にはそれぞれの考え方や、多様な価値観があることをついつい忘れがちになってしまいます。アンコンシャス・バイアスは誰にでもあって、なくすことはできないものです。しかし、こういったことがあるということを知り、少し意識するだけでも種々の対応が変わってくるのではないかと思います。