W&3C vol.30
鏡に刻む、時を超える手仕事 – 和鏡職人が映す、技と人との静かな交差点
山本合金製作所 五代目鏡師 山本 晃久
# W&3C
# W&3C
# Vol.31

シミックグループの企業カルチャー「W&3C」の価値観を軸にお届けするインタビュー企画。今回のテーマは「Challenge」。京都・大徳寺のほど近くで畳の製作と張り替えを行う職人・横山充さんにお話を伺いました。国内外の邸宅や寺院、アートプロジェクトにまで畳を届ける横山さん。海外生活の経験を経て、改めて“日本のものづくり”の奥深さに魅了され、畳と向き合う道を選ばれました。一畳に込められる素材、技、歴史、そして未来への挑戦とは。
海外で暮らした経験が、自分の進む方向を大きく変えました。ニューヨークでの生活は刺激的でしたが、同時に「自分が誇れる日本の文化とは何だろう」と考えるきっかけにもなりました。帰国してから、伝統の技を身につけ、それを海外にも伝えたいという想いが強くなっていきました。その中で出会ったのが畳でした。
畳職人としての基礎は、京都の職業訓練校で学びました。その後、老舗の畳店で修業を積み、技の確かさや誇りに触れる毎日でした。何十年と積み重ねられてきた動作や判断の意味が少しずつ理解できるようになり、畳は敷物”ではなく一つの工芸であることを実感しました。
独立して工房を構えたのは、大徳寺のすぐそば。寺院が立ち並ぶ地域だからこそ、丁寧な仕事を求められることが多く、日々身が引き締まります。宝泉院をはじめとした寺院のほか、国内外の邸宅にも畳を届けています。海外のお客様から依頼いただくこともあり、日本の本物を求めてくださることを肌で感じています。時には海外の現地まで採寸に出向くこともありますが、一畳に向き合う姿勢はどこでも変わりません。
畳に使われるい草には20種類以上あります。品種や生産地によって香りも色もまったく違い、仕上がりの印象まで変わります。畳床との組み合わせでも踏み心地が変わるため、使う場所、求められる表情、お客様の好みに合わせて最適な素材を選びます。素材を誤魔化せないところが、畳づくりの面白さでもあります。
畳の技術は“住まいに敷くもの”の枠を超えて活かせると感じています。アートプロジェクトに関わる機会も増え、畳の目、線、影が表現になる場面に立ち会うたびに可能性を感じます。伝統を守りながら、新しい場にも畳を届ける挑戦を続けていきたいと思っています。
畳づくりは、素材に触れ、手を動かしながら自分の状態がそのまま反映される仕事です。焦っていると目の揃い方にわずかな乱れが出ますし、逆に気持ちが落ち着いていると仕上がりも自然と安定します。畳と静かに向き合う時間は、自分自身と向き合う時間でもあります。工房で日々同じ動作を繰り返していると、良い畳をつくるためには技術だけでなく、心の状態も大切なのだと改めて感じます。
海外の現場に向かうたび、日本の技がどれだけ信頼されているかを実感します。畳を敷く部屋は家の中でも特別な場所として扱われることが多く、依頼をくださる方々は本物の素材と丁寧な手仕事を求めています。現地の空気や文化の中に畳が収まっていく瞬間を見ると、遠い国でも畳の良さは通じるのだと嬉しくなります。海外での経験があったからこそ、日本の技を持って世界とつながることに価値を感じています。
畳の魅力は見た目だけではありません。い草から立ちのぼる香りには、空気を整え、気持ちを落ち着かせる力があります。新しい畳を敷き終えた瞬間に部屋がふっと静かになるような感覚があり、その場の雰囲気がまるごと変わることもあります。お客様から「部屋で深呼吸したくなる」と言われることも多く、畳は空間そのものを作り変える力を持っていると感じています。
京都は土地そのものが“目利き”のような場所です。寺院や老舗が多く、長く続いてきた文化が日常の中にあります。そこで畳をつくるということは、自分の仕事が文化の一部に触れているということでもあります。目が肥えた方々が多い地域だからこそ、仕上がりや素材選びにも自然と緊張感が生まれます。この環境で畳をつくり続けることが、自分の技を磨く原動力にもなっています。
畳の需要は昔に比べると減っていると言われますが、だからこそ新しい場に畳を届ける可能性があると感じています。住宅だけでなく、店舗、ギャラリー、イベントスペースなど、畳の持つ質感や温かさが生きる場はまだまだあります。伝統を守りながらも、固定されたイメージにとらわれず、畳の魅力を広げる取り組みを続けていきたいと考えています。
PROFILE
横山 充 Mitsuru Yokoyama
1978年 東京生まれ。京都を拠点に活動し伝統建築に加え、現代アートやデザインプロジェクトにおいて畳制作を手がける。2012年京都畳技術競技会 普通科2年の部 京都市長賞受賞、2013年同競技会 研究科1年の部優勝 最優秀賞 京都府知事賞を受賞、畳製作一級技能士取得。 これまでのメディア掲載にはVOGUE、ELLE、婦人画報、朝日新聞、 HOME、DAZZLEなど他多数。 2017年、KYOTOGRAPHIE国際写真祭で写真家ヤン・カレンとコラボレーションを行う。また、京都コンテンポラリープロジェクトでは、フランス人デザイナー Astrid Hautonと共に畳を使った新しい家具シリーズを制作。 2018年にはKYOTOGRAPHIE国際写真祭で行われた中川幸夫展 両足院(建仁寺内)にて27畳の黒畳を製作。また、Maison Objet 2019(パリ)に招聘され、フランスの伝統工芸職人Valerie Colas Des Francsとの新プロジェクトを立ち上げる。これに加え、2019年から2020年にかけて二人のフランス人デザイナーとコラボレーションしたプロダクトを発表予定。 横山充は海外で幅広い活動を精力的に行っている。一級畳製作技能士。
https://yokoyamatatami.com/jp/